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心の声を受け止め、わがままを応援する!(1)

特別養護老人ホームおきなの杜 看護師 小村一左美

※本記事は日総研の隔月刊誌『エンドオブライフケア』2018年9-10月号掲載記事を一部改変したものです。

特養へ入所したYさん

Yさん(65歳、男性)は、脳卒中による後遺症のリハビリ目的で介護老人保健施設(以下、老健)に入所していた。


そのYさんの特別養護老人ホーム(以下、特養)入所に際しての面談に老健を訪問した帰り際、廊下を歩いているところにYさんの妻が追いかけてきて、私にこう言った。


「始終電話をかけてこられたら困るので、私の携帯番号は夫には教えないで欲しい」。


こうして特養の住人になったYさんだが、認知症のある他の利用者に対する言葉の暴力に始まり、セクハラ行為など、問題を起こすことが少なくなかった。


しかし、それ以外は全く手が掛からず、左半身麻痺はあるものの、動く右手で上手に車いすを自操し、会話にも全く支障はなく意思疎通も十分可能であった。


Yさんには、息子と娘の二人の子供がいたが、息子は全く顔を見せたことがなく、また妻も娘も差し入れ(嗜好品や衣類)を置いたらすぐに退散した。


拭いきれぬ疑念、そして入院

このような生活を送っていたYさんが68歳になったある日、私はYさんの姿を見て反射的に立ち止まった。『この痩せようはどうしたものか。貧血もあるようだし…』。


Yさんの眼瞼結膜を見ると明らかに貧血状態が見て取れた。加えて、なんと今年に入って10kgも体重が減少していた。とりわけこの1ヶ月間に3㎏も減っていた。『がん…』という言葉が頭の中をかすめた。


Yさんは自力で食事を摂れるし、意思伝達にも問題がないので、特養に入所してからのYさんの健康状態には、正直あまり注意を払っていなかった。


その日、注意深くYさんの食事風景を観察したところ、何とYさんは、ほとんど食事には手を付けず、隣の人の食器と自分の食器の始末を動く右手でやっていたのである。


これではYさんがどれだけ食事を摂取したか把握できないはずだ。だから、今まで誰もYさんの食事摂取量が減少していたことに気づかなかったのだ。


新たな発見と同時に、この3年間、Yさんの行動を注意深く見ていなかった自分を反省した。


私は、「Yさん、ほとんど食べていないようだけど…」とYさんに声を掛けた。「まずくて食えんわ」とYさんが答えた。


「いつ頃から食べてないの?」と尋ねる私に「1ヶ月くらい前かなあ」と答えた。


「食べられそうなものは?」と問うと「うなぎやな、うな丼!」と笑いながら返した。


『今後のことは、血液検査の結果が出てから考えよう』。その時の私はまだ楽観的であった。


(この続き:2035文字)

 

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